第二章

 熱い――ありすは息苦しさに、息を吸った。すっと柔らかく温かな何かが、頬の汗を拭いとる。
 バチッと炎が爆ぜる音がしてありすは目を覚ました。
 びくりと指先が引っ込む。頬に触れていた感触を確かめる様に手で覆い、指の主を見る。
(この人)
 漆黒の瞳が、じっとこちらを見ていた。
 観察するような静けさと同時に、その黒い目に映る炎のようなじっとりと籠る熱を感じた。
 しばらくの沈黙。見つめあった時間は短かったが、すうっと風が肌を撫ぜる度、驚くほど自分の全身が火照っているのが分かった。
 お互いの息遣いだけが、木の騒ぐ音だけが聞こえた。
 きゅうっと胃が縮むような感覚。
 ぐうっ。
 重い沈黙を破ったのはありすの空腹を知らせる音だった。真っ赤になったありすの目の前に、無言で串に刺さった魚が手渡された。
 とりあえず受け取って、彼の様子を窺う。
 炎に照らされて、怖いほど整ったその顔が無表情のままで言った。
「食べるか?」
「……食べれるの?」
「食べ物も作りも、殆ど同じだからな。“ここ”は」
 彼の言葉にはっとして、ありすは辺りを見回した。
 どうやら夜のようだ。月一つない、闇のような空。
 辺りは木に覆われている。森だろうか。
「ここ、どこ?」
 短く息を吐いて、彼は大きなたき火の近くで焼いていた魚を取った。
 かぶりつくと、香ばしい匂いがする。
「もう一つの世界」
 かっと頭に血が上った。
「ふざけないで!」
「ふざけてねえよ。ほら」
 彼が目線で示した場所を見れば、そこには先ほど夢で戦っていた時の――
「弓?」
 ありすは自分の体を見た。
 制服に包まれたその足は、黒タイツで包まれているだけ。靴も何も履いていない。
 さっき夢でいた時と同じように。
 ありすの顔面が蒼白になった。血の気の引いたありすの顔を、彼が冷静に見る。
 沈黙のまま項垂れたありすに、彼が言う。
「まあ、しばらく一緒に旅すれば分かるさ」
「旅?」
「そう」
「どうして」
「あんたが、聖女って呼ばれる存在だから」
「ふざ……」
「ふざけてねえよ」
 言いきる前に両断され、ありすは口を噤んだ。
 不満げなありすを、蓮がうっとうしげに見ている。
「あんたは、元々はこっちの世界の人間だ」
 ありすがきょとんとして彼を見る。
 蓮は魚にかぶりつきながら、淡々とした口調で答える。
「ちょっとこっちにいられなくなって、向こうの世界に送られた。そういう人間は少なくない。俺もその一人だ」
「あなたも……」
「俺は記憶が蘇りかけているから、いたって冷静だけどな。あんたの記憶はよっぽど厳重に封じられたらしい」
 寝乱れ、汗で濡れた髪を整えていると彼が食事の手を止めて見つめていた。
 哀しげなその瞳に、ありすは何も言えなかった。
「あんたは、記憶を取り戻してある男を封印する」
「男?」
「ああ。レナっていう男だ。前世であんたを殺した男だよ」
 落ち着いた声で言われた。
 低い声は夜に溶けて、何を言われたのか理解するのに時間を要した。
 しばらくしてその意味に気付いて、唖然とした。
「私を?」
「そう、今度会ったらもう一度殺されるだろう。そして、もしその男を活かせばこちらも向こうもめちゃくちゃになる。
あいつは――全てを恨んでるんだ」
 蓮の声は微かに掠れていた。
 黒い睫毛が震えているのを見てありすは黙ったまま眺めている。
「それをあんたは止めなくちゃいけない」
「……私が、聖女だから?」
「そう」
「でも、何ができるっていうの? 私は別に、特別なことなんて」
「そうか。あんたは十分特別だった。 老婆蜘蛛を跳ねのけたあの力、あれが証拠だ」
「そんなこと言われても」
 口を濁して顔を背ける。
 蓮の肩が、がっくりと下がった。
「どうあっても、自分が特別な存在だって認めたくないみたいだな。なら、言い方を変える」
 少しの間があった。
 震える声は、しかしはっきりと、ありすの耳朶を揺さぶった。
「ありす。俺を助けてくれ」
 ありすは目を大きく見開いた。
 彼の揺らぐ瞳に、呆然としている自分の姿。
 蓮の声色はいたって普通だった。切実さも、必死さもない。
 けれどなぜか心に響く、力強い何かがあった。
「俺はこのままじゃレナに殺される。だから、あいつを殺す。あんたには、その手助けをして欲しい」
「殺されるって、どうして」
「どうしてかは言えない。でも、助けてくれ」
 無茶苦茶だ。
 揺れるありすの心を、もう一度蓮の声が引き寄せる。
「ありす」
 耐えきれずに瞳を閉じる。
 ありす。
 彼に呼ばれると、その名前は懐かしく、そして酷く哀しく、ありすの心の内側で反響した。
「――良いわ」
 するりと、言葉がついて出た。
 今度は彼の瞳が驚愕に見開かれる。ありすは毅然として言った。
「レナを殺して、あなたを助ける」
「本当に?」
「どの道、そうしなきゃ帰してはくれないんでしょう?」
「そりゃあ、そのつもりだったけど……」
「なら決まりじゃない。私一人じゃ帰れないもの」
「そんなに簡単に信用して良いのか?」
「信用はしてない」
 ありすは彼の目を見つめ返して言った。
「心を許してもない。でも、頼りにはしてる」
「何だそれ」
「……いつか、理由を話してくれたら信用できるかもしれない」
 そう言うと、蓮は押し黙った。
「それまではとことん利用しようと思って。一人でいるよりかは、よっぽどましだし」
「良いのか? 俺が良い奴かどうかも分からないのに」
「良い人よ。あなた」
 蓮の表情が凍りつく。
 ありすはそっと彼の手に触れた。傷口を指でなぞると、彼は痛みに顔を顰める。
「こんな怪我をしても、あの蜘蛛から私を助けてくれたわ」
 さあっと風が髪を揺らした。
 あまりの強風に目を閉じる。庇うように、蓮がありすの腕を引き寄せた。固い、学ランのボタンが頬に触れていた。冷たくて、ほんのちょっぴり痛い。
 風がやみ、離れる。不自然に距離をとったありすを気にすることなく、蓮の太い指が髪についた葉っぱを取った。
 先ほど、頬に触れたであろうその指先。どんな表情で触れたのだろう。
 今みたいに無表情のままだったのだろうか。決して乱暴な触れかたではなかった。寧ろ壊れ物を扱うかのような、優しい触れかただった。
「私、あなたのことなんて呼べばいい?」
「蓮」
「それで良いの? あだなとか」
「良いよ。俺の名前は蓮だから。それ以外の何者でもない。お前が、ありすであるように」
 そう呟く彼は、少しだけ寂しそうだった。
 風が冷たかった。
 蓮はそのあとは何も喋らず、たき火の前に腰をおろし、黙々と食事を始めた。
 ありすも彼と少し距離を置いて座る。
 手に持ったままの魚を食べ始めた。
 彼の顔を時々窺いながらする食事は、彼の苦しそうな顔を見ているせいだろか。なぜか切なくて、こみあげてくる息苦しさを、食事と共に喉奥に押しやった。

 ありすが目を覚ますと、既に蓮は支度を整えていた。
 体を捩ると、物音に気付いたらしい彼がこちらを見る。彼の顔をじっと見ていると、彼もまたその黒い目ををありすへ向けた。
 どうして――見つめ合うだけで彼は苦しそうな、辛そうな顔をするのだろう。
 そんなことを考えているとふいっと顔を背けられた。
「とっとと支度しろよ」
 そういうと傍に置いてあった日本刀を手入れし始める。
 きっと几帳面なのであろう。皺ひとつない学ラン。太陽の光を帯びたそれは深い黒色に輝いていた。
 彼の漆黒の髪と相まって、ミステリアスに、そして重く、固く感じさせる。
(苦しそう)
 学ランは、こんなに息苦しそうだったけ。
 ありすの視線に気づいてか、蓮が「気持ち悪い」と一蹴した。頬を膨らませたありすに言う。
「あと五分で出る」
「ま、待って! 歯磨き」
「あー。ない。次にどっかついたら買ってやるから。ほら、これでもくっとけ」
 ポケットから手探りで取りだしたのは黒い……キシリトールガムだろうか。ぽいっと投げられて、慌てて受け取る。
 そっと見てみれば激辛と銘打たれている。ひいっと縮こまるありすに、蓮が口をもぐもぐと動かしながら言う。
「心配するな。あんまり辛くない」
「本と……?」
 頷いた蓮。
 ありすは包み紙を開け、黒いガムを口に放った。
 刹那、強烈なミントの香りと舌を裂くようなピリッとした痛みがありすを支配する。
「いたああい!」


「なあ」
 蓮の呆れたような声に、ありすはつんっと澄ましたまま歩いていた。
「しっかり歩かなきゃ木にぶつかるぞ」
「え……きゃっ!」
 遅かった。鼻に走る激痛。押さえてうずくまる。
 鼻血は出ていないらしい。
「ほら、な」
 威張っているようにも聞こえる、哂うような鼻息。
 むっと眉尻を吊り上げて、ありすは蓮にかみつく。
「分かってたならもっと早く言ってよ、馬鹿ぁ!」
「だから言っただろ」
 もうっと、ありすは涙目で蓮を睨む。
 そのまま歩き出した。彼の唇から、やれやれと深い息が漏れるのが分かった。
「おい」
「……何よ」
 今度は前もちゃんと見ている。
 が、忠告は一応聞くことにした。
「前」
「何もないわよ」
「だから、何もないって言ってんの」
「はあ? 何言って――きゃっ!」
 地面が、ない。
 怒りと共に勢いよく踏み込んだ右足が宙を掻いた。全身に鳥肌が経つ。
 左足も、止まらない。
(落ちる……!)
 ありすはぎゅっと目を閉じた。
 宙に身をゆだねるように、体の力がぬけてゆく。
「危ね」
 ほっとしたような、耳元で温かな吐息があたる。
 ぎょっとして振り返る。蓮が脇の下を押さえていた。
「とっとと、自分で立て。重い」
 その言い方が妙に感に障る。
 ありがとうと半ばいら立ちと共に吐き捨てる。
「見えた」
 蓮の声に顔をあげる。
 彼の指さす方を見てみる。そこに見えた光景に息を呑む。
「家?」
 ありすの問いに蓮が無言のまま肯定する。
「熾朱国(ししゅこく)。ここから一番近い国だ」
 そこに見えたのは石でできた巨大な建物。
 金がふんだんに使われている王宮のようなものも見える。ありすは茫然と国を眺めていた。
 とても、大きい。
「とりあえず麓まで行けば行商人がゴロゴロしてるだろ。適当に着る物と金奪うぞ」
「え、泥棒じゃない! 駄目よ、そんなの!」
「って言った所で……この国は他の国よりも入国が厳しい。他国の者にも冷たい。
俺らの服は傍から見ればおかしいからな。下手すれば殺されるぞ」
「じゃあ別の所から……」
「無理だ」
 きっぱりと蓮は言った。
「ここは島国だ。出るためには船がいる。俺たちは船を持ってない。だとすると、ここの港から乗客として乗り込むしかないんだよ」
 蓮の言葉にありすは生唾を呑んだ。
「――心配すんな。あんたは黙って見てればいい。俺が上手くやる」
「どうして、あなた」
「俺は人柱。お前を護るために存在しているようなもんだからな」
 言いきられて、何も言い返せない。
 ぐっと唇を噛みしめると、蓮が何かを言いたげに見つめていた。
 見つめ返せば、漆黒の瞳。哀しげに細められたその目を、見つめ返す。不意に、彼がありすの視線から逃れるように目を背けた。
「行こう。野宿はあんたも嫌だろ」
 もう、澄まし顔はできなかった。
 夜が迫っていた。妙に気温が寒い。ぶるりと体を震わせると、彼が学ランを脱いで渡してきた。
 無言のまま渡す、不器用な優しさを受け取って、その温かさにくるまりながら、小さな声で「ありがとう」と呟いた。
		

 おい、と蓮に呼ばれてありすはつんっとそっぽを向いた。
「いい加減機嫌直せって。大丈夫だ。ちゃんと助かるから」
「……信用できない」
「信用しとけ」
「できない。さっきので、頼りにするという選択肢もなくなったわ。上手くやるんじゃなかったの?」
「うるさいぞ! お前ら!」
 縛られたままの手首をそっと下ろす。
 看守の怒鳴り声が耳に痛い。目の前を歩く看守はふっと哂う。細く歪められた瞳は、馬鹿にするようにありす達を見下ろしている。むっとありすは眉根を寄せた。
「それにしてもバカなやつがいたもんだ。警吏の前で盗人を働こうなんてな」
「……数年前は違った。第一、あんな馬鹿みたいに派手な服が警吏だなんて思わないだろ。誰も」
「何ぃ!」
「ごめんなさい、ごめんなさーい!」
 ありすは自分のことでもないのに謝って、蓮を睨んだ。
 今度は蓮の方がつんっと澄ましている。
 看守は引き攣った笑みを浮かべながらありすを見た。
「まあ良い。女は色々と使いようがある。あの娘と言い、今日は上玉だな」
「女?」
「ああそうだ。奇妙な服を着た娘だ。お前と少し似ているな」
 それを聞いた蓮は黙ったまま唇を噛んだ。
 何か考えている時の癖らしい。
「同じ牢屋だから、気になるならよく見とけ」
「よく見とけって?」
「明日にはそいつは死刑だ」
「はあ!? 今日来たんでしょ」
「あいつは魔女の娘かもしれん。空からいきなり降ってきた」
「降って……」
 不思議そうに首をかしげると、看守の男は自慢げに話し始める。
「そうさ。光りを纏ったあいつが、いきなり降ってきたのを俺が勇敢にも」
「重くなかっただろ」
 蓮がすっぱりと言いきった。
 むぐっと看守が口をつぐむ。ふっと蓮が唇の端を吊り上げた。
「浮いてたからな」
「な……! きさまもあいつの仲間か!」
「そうだ」
 げっと思わず喉奥から低い声が出た。
「何言ってんのよ、馬鹿!」
 小さな声で叱咤するが、彼はこちらを見ようともしない。
 看守はひきつったような笑みをありすたちへと向けた。
「ふんっ、仲間なら話は早い。お前らも一緒に死刑だ」
「ちょっと……違います。仲間なんかじゃ」
「いいや。仲間です」
「そう仲間……あれ?」
 蓮につられて頷いて、ありすは絶句した。
 ふふふっと看守は哂う。
「良いだろう。そんなに死にたいなら、纏めて焼いてやる。ほら、ついたぞ」
 やや乱暴に牢屋に押し込められて、ありすはちょっとと声を荒げた。
 半ば突き押されて、地面に膝をつく。木でできた扉にすがりつこうとしたが、手が縛られているためできない。柵のようになっている扉からは、看守の鼻で笑う顔がよく見えた。
「明日までそこで大人しくしていろ。安心しろ。明日の朝はごちそうだ」
 笑い声が牢屋に響く。
「要らないわよ、そんなもの!」
 怒鳴るありすに蓮がため息をついた。
 苛立って声を上げようとしたが、もぞりと部屋の隅で何かが動く音がした。
 衣擦れの音。
「やっぱり」
 蓮の声は冷静だった。
 じっと見つめると、ようやく地下の暗さになれてきたありすの目に映る赤と白の服。
(これって――)
 巫女服。
 見慣れない服装に思わず見とれてしまった。
 服装だけではない。見惚れていたのは彼女にもだったのかもしれない。
「あの」
 綺麗な声が響いた。
 優しい声だ。
「大丈夫ですか? お怪我とか……」
「大丈夫です」
 怒りも全て消えていた。
 良かった、とほっとしたように笑う彼女が可愛くて、ありすの胸がきゅんっと痛くなった。
 白い肌。長い睫毛。大きくてぱっちりした目。黒い艶髪は下ろされていて、腰まで垂れていた。
 美人。
 思わず吐息を漏らしてしまうほど、美しかった。
「名前は?」
 いきなりの蓮の失礼な言葉を睨みつける。
 が、彼女は特に怒った様子もなく穏やかに微笑んだ。
「志賀野紗耶、と申します」
「紗耶さん?」
「そんなにかしこまらなくても、名前呼びで良いですよ」
「いえ……じゃあちゃんで」
「はい」
 ふわりと微笑む彼女に、顔が赤くなった。
 同性でもこれは“可愛い”と素直に思える笑顔だ。だが、蓮は興味がないのかいつも通りそっけない口調で言う。
「あんた、落ち着いてるな」
「占いに出ましたので」
「占い?」
「ええ。私の占いは特によく当たります」
「何もなくても、か?」
「たまに、です。夢と混じることもあってはっきりとは言えません。私は普段タロットカードなので、カードがあった方が安定はします」
 巫女なのにタロットカードとは突っ込まなかった。
「人柱、だな」
「人柱?」
 えっとありすは目を見開く。俺は人柱だ、と蓮は言っていた。
 ありすを護るのが役目だと。彼女も、紗耶もそうなのだろうか。
 蓮の目も、人柱について聞き返している紗耶の目も真剣だ。
「とりあえず、説明は後にしようか。元の世界に戻りたい」
「私もです」
「長い旅になるが、力を貸してほしい」
「ええ。構いません。ですが、お願いがあります」
 微笑んだまま、紗耶が蓮を見た。
「私の姉も、一緒にこの世界に来ているはずです。ですが見つからない」
「……そいつが人柱だって保証もここにいるという保証もない。聖母の力はまだ不安定だ。巻き込んだ可能性もあるし、人柱は聖母の血をひくものだからお前と親しいのであれば人柱の可能性は高い。でも、単純に元の世界の別の場所にとばされたという可能性も否めない」
「分かります。姉はここにいます。感じるんです」
 感じる、蓮が胡散臭いとばかりに紗耶を見つめる。
 紗耶は小さく笑った。
「双子なんです。不思議と、分かるものなんですよ」
「双子……!」
 過剰に反応したありすに、紗耶は苦笑した。
「双子というとすごく聞こえるかもしれませんが、普通の姉妹です。言わなきゃ分からないこともあるし、ずっと一緒にいるから感じることも多いだけで」
 でも大切な姉です、と紗耶は鋭い声で言った。
「だから探したい」
「旅の間にその時間をくれ、と?」
「そうです」
「ま、別に良いけど」
 ため息を零して、蓮が呟く。
「その前にここを抜け出さないとな」
「大丈夫です」
 確信を持った声だった。
「助かりますよ」
 紗耶のその声にありすはふしぎにも不安が消えて行くのを感じた。
 見えている未来なのだろうか。彼女の瞳は揺らぎなく、ただその未来を待ち焦がれているかのようにも思えた。
「とりあえずはよろしくお願いします。えっと――」
 紗耶の視線に、ありすははっとした。
「私は泉ありす」
 ありす、と紗耶はぽつりと繰り返した。
「……どうかした?」
 ありすの声にはっとして、紗耶はいいえと首を振る。
「何でもありません」
 彼女の顔に一瞬緊張の色が見える。
 蓮もふしぎそうに紗耶を見ていた。
 妙な沈黙がその場を支配する。重苦しさに耐えきれず、ありすはひきつった笑みを浮かべた。
「ねえ、そういえば紗耶ちゃんって何歳?」
「――え? 16ですけど」
「16!?」
 ビクリッと紗耶が肩を窄める。
「お、おかしいですか?」
 驚いた。確かに落ち着いているが、綺麗より可愛い顔立ちだし、そう変わらないものだと思っていた。
「ううん。あのさ……年上だし敬語使わなくても良いよ? え、違う! 良いですよ」
 くすくすと紗耶が笑う。
「そう、ですか。ごめんなさい。初対面だとなんか緊張してしまって。ありすさんも……ありすも、敬語じゃなくて良いよ」
 ぽうっと頬を赤らめる紗耶。
 愛らしいその表情に、ありすもつられて赤くなった。
「徐々にならしていくね」
 天使のような微笑みも添えられ、ありすはこくりと頷く。
「う、うん」
「それより、えーっと」
 紗耶は蓮を振り返った。
 蓮はため息を零し、そっぽを向く。
「蓮。倉波蓮。呼び捨てで良い」
「じゃあ蓮くん」
「呼び捨てで。くんづけ気持ち悪い」
「ちょっと蓮!」
「ああ、良いんです、ありすさん。それじゃ、蓮。明日のことだけど」
 そういうと紗耶は蓮の耳に口を寄せた。
 2人の姿に、ありすは感嘆を零す。蓮も口さえ開かなければ、顔立ちは整っている方だ。美男美女というのは絵になる。2人とも落ち着いた雰囲気だからか、妙に大人っぽい。どことなく色香のようなものが漂ってきそうだ。
「――分かった」
 蓮の答えと同時に、紗耶が退いた。
 ギロリと蓮の目が光り、ありすは全身を強張らせる。
「そうと決まれば、寝るぞ」
 蓮は頭の後ろで手を組むと、そのまま横になり、欠伸をした。
「ちょっと……!」
「ありす。お前もよく寝ておけ。多分、明日一番大変なのはお前だ」
「どういうこと?」
 ありすの問いに、蓮は答えない。
「なら良い」
 はぐらかすようにそう言って、目を閉じる。もう何も聞くな、という合図だった。
「お休み、ありす」 
		

 目を覚ましたのは、朝日が僅かな窓(というか、穴)から入ってきた時だった。
 黄色がかった、強烈な光に照らされて、重い瞼がぴくぴくと跳ねる。
 それでも、体はだるくて、中々起きあがろうという気にはならない。
 ザッザ――擦るような足音。
 看守のものと似ている。それに気付いた時、ありすは瞼の重みなどすっかり忘れていた。
 ぱっと飛び起き、扉を見る。
 蓮と紗耶は既に起きていて、彼らの顔に緊張の色が見えた。蓮がちらりとこちらを見る。探るようなその仕草に驚いて、彼の顔をじっと見つめ返した。
 扉を開ける音が聞こえ、蓮は再び扉を見る。
「おお、お前ら。迎えに来たぞ。今日はいい天気だなあ。こういう日の炎はよく燃える。そう苦しまなくて済むぞ」
 にたにたと笑いながら細められる目は、酷く嗜虐的だ。
 ありすは反感を覚え、眉を顰めた。蓮は欠伸をし、紗耶は冷静に瞳を瞑って次の言葉を待っていた。
 誰ひとり怯える者がいなかったのが不満だったのだろう。看守の顔が怒りで真っ赤になっていた。
「くそ……! 早く外へ出ろ!」
 看守が紗耶の腕を力任せに引っ張った。
 華奢な体が、土の上に転がった。巫女服が土で汚れ、彼女の綺麗な顔に僅かな擦り傷ができる。
「ちょっと、乱暴に扱わないでよ!」
「うるさい! どうせお前らなど、あと5時間もすれば火にくべられる。感謝するんだな! この熾朱国では火は聖なるものだ。一応天から降ってきたから、天に帰すようにとの天子様の深いお心故だ。本来なら、お前らのような下賤なものには泥死にで十分だ」
「へえ、俺の知らない間にここも変わったなあ。それで、まだ蜥蜴を崇拝してんのか?」
「当たり前だ! 蜥蜴は神の化身とも言われている」
「ってことは、巫女はいるのか? その神に身も心も捧げ、予言の力を授かる巫女が」
「――それは」
 にやりと、蓮の口元が緩む。
 悪いことを企んでいる時の顔だ、ととっさに感じた。ぽんっと蓮の手がありすの頭に乗っかる。
「いないなら教えてやる。この女は巫女の素質がある」
「何!?」
 ありすも思わず聞き返しそうになる。その口を、蓮の手が覆った。
「嘘だと思うなら、死刑の予定の時刻でも聞いてみたらどうだ? それとも、ロストマリンに攻め込む日付の方が良いか?」
「な……!」
「図星か。それならもっと言ってやろうか? 新しい兵器の開発について、とか?」
 ぐっと看守が黙り込んだ。
「なぜ……」
「俺は、気付いたんだ。この国は島国で、山に面している側は崖も厳しいから割と警護は緩いはずなんだ。それをあんなに厳しくするってことは、知られちゃ困る秘密があるってことだ。あの山奥で何をしているって言ったら、兵器の開発があるくらいだろう。加えて、この女が近々戦争が起こるっていうからぴんっときたんだ」
「なるほど、予言か。巫女かどうかは、火の儀式まで活かせば分かることだ」
「で、大事な巫女様を見つけてやったんだ。俺らの命は保証してくれんだろうな」
「安心しろ、死刑だ。秘密を知ったからには死んでもらうしかない」
「ちょっと――」
「巫女様はこちらへ、火をくべるのは巫女様の役目と決まっております」
「加えて、戦争の合図も巫女様じゃないとできない、だろ」
「黙れ!」
 キッと瞳を吊り上げて、看守が声を張る。
 蓮はくつくつと喉奥で笑っていた。
「死刑だ! お前なんて即刻死刑だ!」
「光栄だね。火で殺してもらえるなんて」
「出ろ、お前もこの女も、死刑だ!」
 蓮も牢屋から引っ張り出された。
  紗耶は立ちあがり、大人しく看守についていく。
 しばらくぽかんとその光景を見つめていたありすも、やがて一人だという猛烈な寂しさに襲われた。
(さっきの蓮は何だったんだろう。自ら死にに行ったみたい)
 彼のことをぐるぐると思いだしてみる。どれも自殺行為としか思えない言動の数々だった。
「おい……じゃなかった、申し訳ありません。お迎えにあがるのが遅くなりました」
 現れたのは先ほどの看守だった。
 戸惑いながらも、ありすはぎこちなく笑顔を浮かべる。
「あ、いえ」
 参りましょう、と言われて彼の後に続く。
(蓮の意図は分からないけど、何か理由があるに決まってる。じゃないとただのバカだもの。ただのバカでは、ないと思う。多分だけど)
 牢屋へと続く長い回廊を抜けていく。くねくねと蛇行していたり、柱が何本も立っているが、その間に細い道が見えたりしている。
 まるで迷路のようだ。
「随分立派な回廊なんですね」
「え、ああ。ここは神殿を兼ねているんです。それとこの先に続いているのが饈爓(シュエン)という処刑場です」
 処刑場という単語に、自分の表情が凍りつくのが分かった。
「処刑場?」
「はい。そこで見せしめを兼ねた処刑が行われます」
「罪人同士戦わせたり?」
「それはありません。あるとすれば、一方的になぶり倒すんです。観客に好きな物を持たせて、お好きにどうぞという形で」
 ありすの足がぴたりと止まった。
 コロッセウムと似たようなものか、と思ったがそれよりも酷いんじゃないだろうか。
 立ち止ったありすを、不思議そうに看守が顧みる。
「どうかされましたか?」
「いえ……今行きます」
 ありすが駆けだすと、看守は再びゆっくりと歩き出した。
 まずい、とありすは自分の鼓動が速くなっていくのを感じた。
「ああ、もうすぐつきますよ」
 神殿は決して暗くはなかった。それでも、陽の光が入りづらく作ってあるのか薄らと光がともっている程度。
 しかし、ありすの目の前にあるのは違った。ぱあっと一面に陽が降り注いでいる。
 最後にアーチのような門をくぐれば、じんっと肌が照りつけられるのと、むわっとした熱気を感じた。
 観客の歓声が耳に痛い。
(東京ドームみたい)
 ふと、会場の中央に、木にしばりつけられ、草で足元を固められている蓮と紗耶の姿があった。
「ちょっと! 2人を解放して!」
 喰いつくと、看守はやれやれとため息をついた。
「それはできません」
「どうして」
「あと、巫女様には、これを地面に書いていただきます」
 ありすの訴えも虚しく、一枚の紙切れを渡された。
 押し付けられたありすは渋々それを受け取って、首を傾げる。
「何、これ?」
「(サン)、とお読みください」
「サン?」
「ええ。こちらが祝詞になります」
 渡された紙に目を通して、ありすは目を見開いた。
「魂を鎮め、煙と共に天にって――これ」
「ええ、あの二人の処刑に使う言葉です。我が国は真言と言って、真意文字の意味を理解し、発することで炎に関しての力を発揮することができます」
「真言?」
「最も、扱えるのは我が国の中でも巫女の家系のみ……。だから、あなたがここで力を使えば、巫女であるということが証明されます」
 先ほど言っていた火の儀式とはこのことだったのか。
 ありすは唇を噛みしめた。
「できません」
 紙を破り捨てた。きつく看守を睨める。
「こんなことできません!」
 その言葉に看守の両目が怒りで血走った。
 わなわなと彼の全身が震えている。ありすはそれでも、看守をねめつけたままでいた。
「そうか――ならば、良い」
 ありすの腕は看守によって絡め取られ、地面に押さえつけられた。キリキリと関節が悲鳴を上げている。痛みに思わず声が漏れた。
「巫女であったとしても、仕えぬ巫女なら居ぬも同然……! 安心しろ、後で仲間と共にきっちりあの世に送ってやる」
「おい、誰か! 巫女様を呼んで来い!」
 巫女、いなかったのではないか。ありすは横目でちらと、入口を見た。すると、まだ小さな少女がよちよちと歩いている。
 まだ八歳前後ではなかろうか。幼い顔立ちには、観客の歓声への怯えが見えていた。
「ちょっと、あんな小さな子にやらせる気?」
「俺だって本意じゃない。小さいと力が安定しないからな。だが、先立っての病で巫女の家系はあの少女しかいない。やるのはあの巫女様しかいないんだ」
「そういうことじゃないでしょ、力が安定しないとかどうとか!」
「そういうことだ」
 少女の足は、ありすの横で止まる。
 少女巫女に別の看守が、紙を渡した。震えた手で少女巫女は受け取り、怯えを落ち着かせようと深く息を吸い込む。
 いつの間にか、会場のざわめきは静まっていた。
「……炎の導きの元、二つの魂を鎮め、今、この煙と共に天に帰さん」
 小さな声がドームに響く。少女巫女の指が、地面に先ほどの文字を書いた。
 やや張った声で、少女巫女が叫ぶ。
「我の声を、届け給え。火の精霊の加護を我が手に――仐!」
 少女の声と共に、文字が燃え、それは蓮と紗耶の足にある草へと駆けていく。燃えだした草を見て、ショックのためか座り込んでなきじゃくる少女巫女を見て、ありすは「止めて」と呟く。
 再び騒ぎ出した観客の声が、耳ざわりだった。
「止めてぇぇえええ!」
 刹那、ふわっと体が浮いた気がした。耳元で優しい声がする。
 懐かしく、柔らかなその声が、名前を呼んだ。
『ありす』
 暗い意識の中、耳元を撫ぜるその声。
 電撃が体中を駆け巡った。細い指がありすを体から剥がそうとする。ダメ、とありすは激しく拒む。腕を祓うと、紅い唇が残念、と微笑んだ。
『また逢いましょう、私の可愛い子』
 その声が意識の遠くで、弾けて消えた。
	

「ありす」
 蓮の声に引き寄せられて、ありすははっとして目を開ける。
「起きろ、走るぞ」
「え……?」
 彼に抱き起こされて、初めてありすは自分が倒れていたということに気がついた。
 どことなく体が重くて、膝に力が入らない。それでも、彼が駆けだしてありすも駆けだす。紗耶も後ろをついてきた。
 走っていると、呼吸があがってくる。徐々に意識も冴えてくるようだった。
「えっと、何が……」
「よくやった。お前のおかげで、俺達も助かった」
「は?」
 ぽかんと口を開いて固まるありすに、紗耶がくすくすと笑いかけた。
「ありすの体からぴかあって光が出てね、皆倒れちゃった」
「ええ!?」
「志賀野の予言。いくつか未来がみえて、そのうちお前一人処刑台に立たされなければ助かるんだと」
「だから蓮に教えてあげたの。町では皆飢えてた、軍用基地は大きいし、山の方にも大きな工場があるみたい。入国審査は普通より厳しい。あと巫女様について憂う声があった。ピースを組み立てて、上手くありすを生かしてねって」
 昨日の夜の2人のひそひそ話はそれか。
 ほっと胸を撫で下ろした。
「ごめんね、でもありすが危機感ないと成立しない技でしょ?」
「技じゃねえよ、力。お前のその能力だって」
「あ、そうだ! ごめんね。で、今港に向かってるの。ここから少し離れた所にロストマリンっていう国があって、そこに向かう船に乗れば良いんだって」
「えちょっと待って、弓!」
「置いてけ。俺も剣を置いてく」
「いやよ。新しい弓に慣れるのにどんだけかかると思ってんの?」
「知るか。緊急事態だ。とにかく走れ」
 涙目になりながらありすは必死で腕を振る。
(それにしても、さっきの声)
 あの低い女声は誰のものだったのだろう。懐かしい気もしたし、その声は酷く遠いものにも聞こえた。でも、耳に馴染むその声は初めてというわけではない。
 また逢いましょう、艶めかしく動く紅い唇。
 あれが頭から離れない。
「どうしたの、ありす?」
 紗耶の丸い目が不思議そうにこちらを見ている。
「ううん、何にもない」
 慌てて頭をふると、後ろで蓮がぼそりと呟く。
「またぶつかるぞ」
「あんたはうっさい!」
 ちぇっと口をとがらす蓮を見て、なんだか力が抜けてしまった。
(ま、いっか)
 とりあえずは全員無事で良かった。
 2人のぬくもりを感じながら、ありすはほっとしたように口元を緩めた。
	

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